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福岡高等裁判所 昭和46年(う)236号 判決 1971年10月25日

控訴人 被告人

被告人 大倉俊夫

弁護人 南谷知成 外一名

検察官 山本新

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人南谷知成が陳述した控訴趣意は、記録に編綴の同弁護人および弁護人桜木富義連名並びに被告人提出の各控訴趣意書に記載のとおりであるから、これを引用する。

同各控訴趣意について。

所論は、いずれも、要するに、原判決が本件鶏羽を原料とする飼料の製造に適用したへい獣処理場等に関する法律第八条に、いわゆる「鳥類の肉、皮、骨、臓器等」の「等」は、同法条の用語の通常の解釈として、「肉、皮、骨、臓器の数種、もしくは、これら四個の概念に準ずる物を含むそれぞれの総称及び複数体」を意味するもので、右「肉、皮、骨、臓器等」に本件鶏羽が含まれないことが明らかであるのに、本件鶏羽が右「等」の中に含まれると解して、被告人に対し有罪を言渡した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の解釈適用の誤りがある、というのである。

よつて検討するに、へい獣処理場等に関する法律第八条は「第二条第二項及び第三条から前条までの規定は、魚介類又は鳥類の肉、皮、骨、臓器等を原料とする油脂、にかわ、肥料、飼料その他の物の製造及びその製造の施設並びに獣畜、魚介類又は鳥類の肉、皮、骨、臓器等を化製場又はこれに類する施設に供給するためにするこれらの物の貯蔵及びその貯蔵の施設に準用する。」と規定し、魚介類又は鳥類の肉、皮、骨、臓器等を原料とする飼料等の製造は、その準用する獣畜の肉、皮、骨、臓器等を原料として飼料等を製造する場合に関する、同法第二条第二項、第三条によつて、都道府県知事の許可を受けた化製場以外の施設で、これを行つてはならないことになつている。しかして、その目的とするところは、魚介類又は鳥類の肉、皮、骨、臓器等を原料として飼料等を製造するときは、これらの物自体の性質上、ことにこれらの物を大量に、連続的に取扱い、処理加工する過程において、獣畜の肉、皮、骨、臓器等を原料とする場合と同様に、とかく不潔になり易く、悪臭、悪汁を放ち、あるいは蠅や蛆の発生を見て人の生活環境自体が極度に汚染し、また、これらのおそれのあることが容易に予測され、そのため付近住民の健康福祉につながる公衆衛生上に害を生ずるおそれがあるので、右行為を都道府県知事の監督下に置いて一定の基準の下に取締り、規制することによつて、右行為から生ずる環境汚染を可及的速やかに、かつ万全に防止し、もつて公衆衛生を保全することにある、と解されるのである(同法第二条ないし第七条参照)。『このような見地からこれを見るに、同法第八条が「魚介類又は鳥類の肉、皮、骨、臓器等」と規定したのは、右飼料等の原料となる魚介類及び鳥類に共通している生物体の主要な組織及び器官であつて、環境汚染を来たし易いと思われる典型的なものとして、肉、皮、骨及び臓器を例示的に掲げると共に、その他の魚介類及び鳥類に共通し、又はそれぞれに特徴的な組織ないし器官で、それを原料として飼料等を製造するときは、右肉、皮、骨、臓器の場合と同様に環境汚染を来たし、公衆衛生上害を発生するおそれがあるものもあることから、これらも右肉等と同様に規制の対象とする必要があるので、これらを含め一括してその対象とする趣旨で、「等」という文言を付加して表現したものと解するのが相当である。』

ところで、記録及び原裁判所で取調べた証拠によれば、『被告人は原判示の場所に設置した工場において、養鶏業者から大量の鶏羽を集荷し、これを遠心分離機にかけて脱水した後さらに火力乾燥機によつて乾燥したうえ、第一種圧力釜(蒸気釜)で処理し、最後にカツターにかけて粉末状の飼料を製造するのであるが、右製造の過程において、アルデヒド類とアミン類を主要成分とする極めて強度の不快感を伴う多量の悪臭を放ち、気象条件の如何によつては右工場を中心とする約二キロメートル四方という、かなり広範囲の住民に影響を及ぼすこと、そして、その臭気の主成分であるアルデヒドの一部は刺戟性の有毒性ガスと考えられていてその臭気は一種異様なもので、その不快感は、人に、いやな感じ、食事がまずい、頭痛、頭重、来客がいやがる、気分がいらいらする、はき気をもよおす等の障害を与えるおそれがあること、又、時として悪汁が流出し、蛆および蠅が発生し、風があれば羽毛が飛散すること、及び右のような諸現象は前記法条の例示する鳥類の肉、皮、骨、臓器を原料とする場合とさほど異らない程度のものであること、が認められる。

そうだとすれば、被告人が飼料製造の原料としている鶏羽は、まさに、同法第八条にいう肉、皮、骨、臓器「等」に包含されるものと解せざるを得ないのである。』右のような目的論的解釈は、同法制定の趣旨に適う妥当なものであつて、これをもつて、所論のように同法の規定をこえた類推解釈であつて、罪刑法定主義の原則に照らして許されない、とする見解には到底賛同することができないところである。

従つて、被告人の鶏羽を原料とする飼料の製造は、県知事の許可を受けた化製場で行うことを要し、それ以外の施設で行うことは同法第八条、第二条第二項に違反し、同法第一一条第一号に該当するものというべきである。これと同趣旨に出で、被告人の本件所為について有罪の言渡をした原判決はまことに相当であり、所論のような、法令適用を誤つた違法はない。論旨は理由がない。

そこで、刑事訴訟法第三九六条に則り本件控訴を棄却することとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木下春雄 裁判官 緒方誠哉 裁判官 池田久次)

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